院長ブログ

継承問題

公開日: NEW
監修:めいほう睡眠めまいクリニック院長 中山明峰

 「この骨董品を苦労して手に入れ、後世のために大事にして来た。永久的に大事にしてくれ」と遺言を残したのに、後世がお宝鑑定番組に出展し、そしてそれは偽物であったシーンは視聴者の爆笑を誘う。
 「大学で睡眠医療センターをゼロから立ち上げたのは大変だったでしょう」とよく聞かれるが、実は継ぐ人間の方が大変だと思う。ゼロから始めた人間は毎年右肩上り、継ぐ人間は必ず前と比べられるからだ。後進が継ぐのに困らない組織とは何か、創設時から計画に入れ、その思考は今の開業にも活かしている。「組織の大事なことは、必要とされる事業を継続することであり、子どもに継承させるためではない」と、還暦過ぎても頑なにこの考えを守っている。負の遺産という言葉があるように、子どもに継がせることは必ずしも幸せにするとは限らないし、子どもに継がせたいと思った瞬間、私の医療スキルが狭くなり、患者に申し訳ない。子どもが継ぎたいなら、自分から意志を伝えるものだと思う。
 友人が多いためか、頻繁に開業医から継承問題を相談される。昔のように子どもが沢山いれば誰か医師になっていることもあろうが、今では医師になっても必ずしも親の言うことを聞くとは限らない。「最近M&Aという形があるよ」と提案しても、「費用取られるじゃないか」と反対される。こうして閉院したクリニックは少なくない。「閉院すると地域が困るんだ」と言う院長、開院当時誰かがそのため閉院したことを考えたことがあるのだろうか。実は閉院しても誰も困らない、と考えてしまう私は変だろうか。
 ある伝統団体から組織を継いでほしいと相談された。なぜ関わって間もない私にそんな大役をと疑問に感じながら、うすうす山積みの問題を抱えることを察した。直ちに責任者交代だと言われたが、1年待ってほしいと伝えた。伝統がある反面、現在の社会ルールにそぐわないことをひとつずつ片づけたいからだ。せめてコンプライアンスが守れること、透明性であることは常識だ。協力してくれる仲間が集い、会議で良き改革案が出る度、建設的な意見に喜ぶ私と対照的に旧幹部の表情が曇る。最終的に幹部から、「改革されるなら組織を閉鎖した方がましだ」と逆ギレだ。残念な組織に巻き込まれずに済んで良かった。
 米国は歴史のない国だと馬鹿にするひとがいるが、私は米国に留学して思考が180度変わった。世界最多のノーベル賞を持つのは、歴史に抑制されない自由思想がある国だからだ。日本では教授の研究を継続するのがいい子、米国では自分の発想が持てず、議論ができない人間は見下される。多くの金持ちは財産を子どもに残さず、全てを社会に寄付する。米国では個人名がついた有名な病院はその寄付から創設したものである。
 なぜ「思った通り」のことを子どもたちに継がせたいのか?魅力的でひとが寄りたくなる組織なら、引く手あまたではないか?少子化などのせいにせずに、消滅する工夫をしなかったことを反省し、再起するべきではないか?お宝を継いで、後に偽物だったと後世を苦しませる可能性もあることが念頭にないのは、加齢変化だろうか?目が明るいうちに見届けたいのは、単なる「エゴ」ではないか?
 父親のクリニックを継がなかった人間が言うのもなんだか、私は子どもに「信念」を残しても「箱」は残したくない。「箱」は一瞬にして負の遺産になる可能性があり、「信念」があれば一生涯食っていける。


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